フィンランドの選挙投票率は他国と比べても高い。2023年に開催された議会選挙における国民の投票率はなんと脅威の72%。若者の投票率も10代、20代ともに64%近くを記録した。(参考までに日本は2022年度参議院議員選挙で、全体投票率:52%、10代:35.4%、20代:34%である。)この差は一体どこから生まれているのだろうか?
2023年議会選挙の最中、フィンランドの教育現場で働いていた筆者は、その秘訣が幼少期の「選挙教育」にあると考える。この記事では、投票率向上に向けてフィンランドが行っている二つの施策について、筆者の持論を交えながら紹介させていただく。
大前提:若者が投票しないのはなぜ?
フィンランドの取り組みについて語る前に、考えなくてはならない問いがある。それは、「なぜ若者の投票率が目に見えて低下しているのか」ということである。
私はこの原因を
①「候補者を決めるための労力が大きいこと」
(=決めるのが面倒くさい)
②「自分の投じた票の反映感がないこと」
(=どうせ自分が投票したって変わらない)の二点にあると考える。
近年、投票所に行かずとも、スマホ一つで投票できるように「電子投票」を取り入れる動きが加速しているが、果たして「投票所」にいくのが面倒だから、若者は投票しないのだろうか?
筆者はそうは考えない。むしろ解決すべき課題は「候補者選定の際の負担軽減」「自分の声が国政に反映されている実感の向上」にあると、確信した。
では、フィンランドはこれらの達成に向けてどのような取り組みをしているのだろうか? 具体的な二つの施策についてご紹介したい。
投票マッチング(vaalikone)
投票先を決める作業は時間がかかる。自分の政治的思想を明確化、各媒体から情報の収集、それらの比較・吟味 etc… 果てしなく時間のかかる作業である。
日常的に政治について考える風潮のある家庭ならまだしも、なんのガイドもなく18歳になったタイミングで「はい、投票してくださいね」と言われても、戸惑う若者が多いことは容易に想像できる。
フィンランドには「選挙に対するとっつきやすさ」を作るべく「投票マッチング」(フィンランド名:vaalikone)と呼ばれるwebサービスが開発された。
まず、ネット上で自身の選挙区を選択し、その後、20問ほどの政治的質問(例:「マリファナの使用を支持する or しない」「生理用品の現状価格は高すぎる」など)に回答をする。
すると、コンピューターが自身の回答結果と候補者の回答結果を照らし合わせ、自分の思想に合った政党・候補者を表示してくれる。
興味のある候補者をクリックすると、彼らのビデオプレゼンテーションが見られるほか、掲げる公約や、自身の思想とのマッチ度合いが確認できる。
この投票マッチングのサービスは、まだ投票権を持たない生徒たちが模擬選挙(詳しくは後述)をする際に利用されるほか、有権者の大人たちの間でも実際に活用されている。
私のホストマザー曰く、
「もし誰に投票すべきかわからなかった時は、大まかに絞り込むため、vaalikoneを活用するわ。もちろんこのサービスだけで候補者を決めることはリスキーなので、絞り込んだ後、より詳細な情報を求めて追加リサーチをした上で意思決定しているわ」
ちなみにこのサービスは複数の会社によって提供されているが、一番支持されているのはYLE=The Finnish Broadcasting Corporation(日本で言うところのNHK)社が提供するもの。ただし、ホストマザーによると、どこのサービスを使っても、大体同じ結果になるとのこと。
選挙に対するハードルを大幅に下げているという点で、フィンランドの投票率増加に大きく貢献しているシステムであるといえる。
ちなみに現在EU elections(欧州議会選挙)の真っ只中のため、vaalikoneを実際にやってみたいという方は以下のサイトから挑戦することが可能である。
模擬選挙
フィンランドでは、国政選挙のタイミングに合わせて、小学校高学年〜高校生までを対象に、実際の政党・候補者に投票する「模擬選挙」が全土で行われる。2023年には合計895校、延べ9万435人が参加した。(つまり12~17歳の若者の4人に1人が参加している計算になる。)
彼らは先述した投票マッチングシステム:vaalikoneを活用しながら、票を投じる先を検討する。
着目すべきは、ただ投票して終わりではなく、各学校の投票箱は回収され、実際の選挙プロセス同様、集計される点にある。
集計結果は数日後、マスメディアによって大々的に報道される。2023年度はTikTokを活用しながら広報活動を進めていた政党が若者から支持を集める結果となった。
このように、早期から「大人扱い」される経験があるからこそ、早い段階で票を投じる意義を理解し、18歳になったタイミングで自然なこととして投票に臨むのではないだろうか?
私のホストブラザー(18歳)も食事の席でしばしば両親と政治の話をし、選挙当日は投票所へ足を運んでいた。
まとめ
最後にまとめである。
フィンランドでは ①投票先を決める労力の大きさ ②投じた票が国政に反映されている感覚の低下、というそれぞれの問題に対し、「投票マッチング(vaalikone)」の活用と「模擬投票」の実施によって解決を試み、高水準の投票率を維持している。
このように、子どもたちが自然と政治に興味が向くよう、システムを駆使しながら教育を設計しているフィンランドという国から、我々が学べることは多そうだ。
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