今日はヘルシンキ訪問。
せっかくなら1日満喫しなくては、と7時の列車に乗りこみヘルシンキへ。
ガタゴト揺られること1時間、中央駅到着。
駅構内に入った途端、コーヒーと焼きたてパンの香りが広がる。
幸せの香りを胸いっぱいに吸いこんで駅を後にする。
日曜日の朝は人が少ない。
普段は人でいっぱいのヘルシンキも朝は異様に静まり返っている。
僕はここぞとばかりに、一眼レフを取り出し、街並みを連写しまくる。
今日の目的地は『Regatta』。
渡航前から絶対行こうと決めていたお洒落なカフェだ。
我がバイブル『マイフィンランドルーティーン』にて筆者は言っていた。
ここで「コーヒー、シナモンロール、ブルーベリーパイ、この三つを食べることでフィンランド旅は完成する」と。
『シナモンロール』に『ブルーベリーパイ』
フィンランドを背負う二大スターの共演。
想像しただけで頬が緩む。
目的地まではヘルシンキ中央駅から徒歩30分。
どうやら街のはずれにあるらしい。
誰もいない街中をてくてくてくてく、ひたすら歩く。
空っぽの胃袋、食欲に導かれるまま、早足で歩く。
ヘルシンキの中心地から外へ、外へ。
最初は店舗ばかりだった風景も、次第に住宅街へと姿を変える。
街並みのグラデーションに心が躍る。
しばらく歩くと、ようやくお店が見えてきた。
赤い木造りの小屋。
手作り感あふれる椅子と机。
メルヘンチックで、絵本に出てきそうな世界観。

小屋の前には韓国人らしき6人集団が列をなす。
きっと彼らも『マイフィンランドルーティーン』の熱烈なファンに違いない。同志たちよ。
現地人の姿もちらほら。
“ついに待ち焦がれたブルーベリーパイとシナモンロールを頬張る時が来た”
実はこの日まで、それらを食べることを禁じていた。
“最初に食べるなら、一番美味しいやつを”、そう心に誓っていたからだ。
これが私のデビュー戦。
夢の実現まであと一歩。
さぁ、あとは最初にして最大の難関『注文』をクリアするだけである。
僕は緊張の面持ちで列に並ぶ。
前の韓国人客の様子を観察しながら、注文のシミュレーションを綿密に繰り返す。
彼らを観察していて、あることに気づく。
“あれ、彼ら二品しか頼まないじゃん”
『コーヒーとシナモンロール』or『コーヒーとブルーベリーパイ』
このオーダーしか聞こえない。
筆者の推奨する『コーヒ&シナモン&ブルーベリー』のトリプルコンボは未だゼロ。
注文を目前にして、僕は揺らぎ始める。懸念が広がる。
“三品頼もうとする自分は強欲なのではないか?”
“店員に「こいつ欲張りだな」って思われるんじゃないか?”
一度考えたが最後、僕の揺らぎは膨れ上がり、無視できない存在になる。
“値段も安くないし、今回はどちらかで我慢するべきか、、、”
動揺がおさまらないうちに、僕の番が回ってきた。
「注文何になさいますか?」
「、、、、、、ホットコーヒーと、シナモンロールください」
口をついて出たのは、なんとも情けない言葉。
僕はついにシナモンロールとブルーベリパイ二つ頼むことを諦めてしまった。
胸の中で両方頼まなかったことに対して、後悔が渦巻く。
欲望が僕に語りかけてくる。
「いやちょっと待て、お前は店員の視線を気にするためにここに来たのか?」
「お前は節約するためにこの店に来たのか?」
「ブルーベリーパイを諦めていいのか?」
答えは否!
僕は至福の時間を過ごすためここにきた。
“ここで我慢したら、一生ブルーベリーパイの後悔を抱えて過ごすことになる。そんなのあり得ない!!”
本当の声に気づいた僕は、慌てて店員を呼び止める。
「すみません、ブルーベリーパイ注文するの忘れていました。追加で頼んでもいいですか?」
店員は僕の思惑を見透かしたかのように、“ニヤリ”と不敵な笑みを見せる
「はいよ。」
「ブルーベリーパイにバニラソースかける?」
そんなのかけるに決まっているじゃん。
食い気味の「Yes, of course.」
自分に甘々な僕は、ブルーベリーパイも甘々にしてもらった。
その後、店員は慣れた手つきでサクサク準備をすすめ、
一分ほど待つとすぐに出てきた。
注文後、満足感が体内を駆け巡る。
たしかに、僕は己の欲望に大敗を喫した。
だが、もっと大事な何かを守った気がするのだ。
僕が守ったもの、きっとそれは「自由」だ。
周囲の視線に負けず
金欠にも負けず
食いたいものをたらふく食う、
そういうものに
わたしはなりたい。
レジを後にしようとした、その時、
「ミートパイでお待ちのお客様〜」
店員が他のお客に呼びかける。
彼女が手に持つミートバイからは湯気が立ち上り、香ばしい匂いが広がる。
現地人らしきおじさんが、「そうそうこれがうまいんだよ」と言わんばかりのほっこりとした表情で受け取る。
「寒い日にミートパイ、その手があったか」
シナモン&ブルーベリしか眼中になかった僕に、そこまで気は回らなかった。
観光客と常連客の圧倒的な差を見せつけられた気がして、悔しくなった。
さぁ、気を取り直して、席を探そう。
湖畔側の席はひとり席がずらりと並んでいていて、ぼっちでも気兼ねなく食事を楽しめる。
手作り感満載のイスに腰かけ、
『シナモンロール』『ブルーベリーパイ』と対峙する。

本物のスターは存在だけで、人を笑顔にするという。
こいつらは正真正銘の大スターだ。
僕は、写真を撮るのもほどほどに、
シナモンロールを口に放り込む。
一口噛んで気づいた。潤沢に練り込まれたシナモンの存在。
シナモンは“ブワァ”と口の中に広がり、鼻腔をくすぐり、突き抜ける。
少し遅れて、バターがひょっこり顔を出す。
噛み切った断面は関東ローム層顔負けの、綺麗なレイヤー。
圧巻だったのは、上に振りかけられた砂糖の塊たち。
本場のシナモンロールは、アイシングがドバッとかかった日本のものとは一線を画し、粒状の砂糖が宝石の如く散りばめられる。
その名も『パールシュガー』
名前から分かるように、上品な砂糖だ。
食べるたびに“ジャリジャリ”と小気味よく音がなる。
そういえば、「上質なシナモンロールは、粒の大きいパールシュガーを使っている」と聞いたことがある。
間違いない。こいつは最高品質、上流階級のシナモンロールだ。
いよいよ、お次はブルーベリーパイ。
パイというよりケーキに近いだろうか。
むっちり詰まったケーキの上に、果肉の残ったブルーベリーソースが染み込んでいる。さらにその上には追いバニラソース。
幸せの三重奏(層)。
フォークで押すと、跳ね返してくるムチムチのケーキ。
日本では市販のジャムがのっていることが多いけれど、
さすがブルーベリー大国フィンランド。ソースは手作りとみた。
それから店員さんがこれでもかというほどかけてくれたバニラソース。。
フォークで大きめにカットし、口へ運ぶ。
さぁ、お前の力をを見せてくれ。
「、、、、、、、、、うーーーーん、、、、、」
いやいや、そんなはずは無い。続け様にもう一口。
「何か、、、、、、パッとしない、、、、」
数回食べて行き着いた結論。
「こいつは、甘すぎる」
頑張って味わおうとするのだが、
感じ取れるのは甘味ムンムンのバニラソースだけ。
こいつの自己顕示欲が異常に強い。
これはかなり残念だった。
せっかくのムチムチケーキも、手作りブルーベリーソースも、バニラで覆い隠された感じ。
“店員の甘いバニラの囁きは断るのが正解だったか、、、、”
しばらく、シナモンロールとブルーベリーパイを交互に楽しんでいたが、
だんだん『甘さ』に飽きてきて、『しょっぱいもの』が欲しくなる。
無い物ねだり、である。
ふと横を見ると、先ほどのミートパイおじさんの姿。
おじさんは“ハフハフ”言いながら、これまたうまそうにミートパイを食べる。
10℃を切った外の寒さが、熱々ミートパイの旨さを際立たせる。
“今日はミートパイの日だったかぁ。”
うっすらと後悔を抱えながら、ブルーベリーパイと格闘する。
満たされたお腹に、ヘビー級のブルーベリーパイ。
欲張ったはいいが、少し重すぎた。
一気に食べる気になれず、しばし湖を眺めながらぼーっとする。
目の前には果てしなく広がる湖。
SUPで湖を横断する中年おじさん。
空中を旋回するカモメの姿。

反対方向に目をやると、現地のお姉さんも湖を見ながらたそがれている。
フィンランドって日常の中に静けさが溶け込んでいて、自然に瞑想していることが多いと感じる。
キャンドルを見ながら、焚き火を見ながら、サウナに入りながら、湖を見ながら、、、、
この自分だけの時間、何もしない時間が、じわじわと喜びを与えてくれる。
しばらくぼーっとしながら湖に思いを馳せる。
日も昇ってきた。
最後のブルーベリーパイを頬張り、
冷め切ったホットコーヒーで流し込む。
お腹は満たされた。
心も満たされた。
優雅な日曜日はまだ始まったばかりだ。
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