この日、僕はフィンランド北部にある「サンタクロース村」に来ていた。
「サンタさんに会う」という目的を果たすために。
サンタさんなんてポケモンと同じ位置付けで、架空の生物だと思っていたけれど、どうやらこの村に実在する人物だという。
「死ぬまでに一度は会っておきたい。」
その情熱が僕を遥か北まで突き動かした。
昨夜から降り続けた雪であたりは一面真っ白。まだ10月だというのに。

本物のもみの木、ぐるぐるに巻かれたランプ、赤を基調とした木造りの小屋。
さすがはサンタクロース村を名乗るだけある。村はクリスマス一色だ。
これでテンション上がらない人なんていないよね。
パシャパシャパシャパシャ、僕はパパラッチさながら、休むことなくシャッターを切る。
到着30分後、僕の写真フォルダーは赤白緑の三色に侵食されていた。
無意識に「ジングルベル」を口ずさんでいる自分。
僕の中で一足早いクリスマスが幕を開ける。
さぁ、本来の目的を忘れてはいけない。
「サンタはこちら」という、世界でここにしかないであろう標識に従い、
思い人、サンタの元へ。


サンタ塔に入り、廊下の角を曲がると、そこには大行列ができていた。
子連れだけでなく、老若男女ごちゃ混ぜで並んでいる。
「う〜む、結構待つ、、、行ったことないけど、アイドルの握手会くらい待つ。」
「まぁ、サンタは全世界のアイドルみたいなもんだから仕方ないな。あぁ、早く会いたいなぁ、サンタさん。」
サンタへの想いは募る。
不思議なのは、待ち時間が一切苦にならないこと。
この待ち時間の高揚感、夢の国「ディズニーランド」を彷彿させる。
人を笑顔にするという点でディズニーもクリスマスも大差ないもんな。
「ミッキーマウス」か「サンタクロウス」かという違いだけで。
ここにきて痛感させられるのは、「サンタクロースって世界で一番愛されている人物だ」ということ。
毎年こどもたちにプレゼントを届ける心優しき親父。それがサンタ。
見返りも求めず、ひたすら与え続けるという点で、彼は生粋の「Giver」だと言えるだろう。(まぁ、親の手柄を横取りするという点では盗人とも言えなくも無い、、、)
しばらく並んでいると周囲に目を向ける余裕が出てくる。
前に並んでいるのは温かな雰囲気の四人家族。
スキンヘッドの旦那、暇になると旦那の頭をよしよし撫でる妻、それに小さな娘さん二人である。僕の興味を奪ったのは、「独特な妻の愛情表現=頭よしよし」ではなく、「娘さんたち」だった。
幼い二人はカチューシャつけて、トナカイになりきっている。その姿はさながら天使で、本物のトナカイより遥かにかわいかったことはここだけの秘密。
父に隠れながら、チラチラこちらをみてくるものだから、僕はメロメロだった。
それから僕の後ろにはご年配の男性二人。80歳前後とみた。じじ友なのだろう。
元気よく「年配トーーク!」を繰り広げている。
シワシワの翁たちが「サンタたのしみですね」「そうですね」なんて会話をしているのが、愛しすぎて、愛しすぎてたまらない。
なんだろう、おじいちゃんがサンタさんにソワソワするのやめてもらっていいですか。
どうやら、サンタには同世代までも魅了する力があるようだ。
前にはトナカイお嬢さん、後ろにはサンタ萌えおじいさん、なんですかこの幸せ空間は。
そうこうしている間に、列はさくさく進み、前の家族がサンタの部屋へ吸い込まれる。
僕は列の先頭へ。
この扉一枚が隔てる先にサンタがいる、そう考えるだけで急に心拍数が高まる。
憧れの人に会うのって、こんなにドキドキするんだね。
列整備係のお姉さんが言う。
「君ラッキーだよ。君の番終わったら、サンタさん休憩入るからね。」
そうか、サンタも人の子か。
「サンタ」が「休憩」、、、なんだか似合わない言葉の気もするが、サンタも相当なご高齢。どうかもうすぐ迎えるビッグイベント「クリスマス」に備えて、たっぷり休養をとってほしい。
「後ろの爺さまたちよ、すまん一足お先に先に会ってくるからね」
「さぁ、入って!」
スタッフの声に促されるままに、緊張の面持ちで扉を開ける。
すると、いましたサンタさん。白ひげ、赤服、サンタさん!
「わぁ、本物だぁ」
サンタさんは、こちらの顔をじっと見つめ、日本語で「こんにちは」と一言。
「!!!」
サンタさんが日本語を話すことにまず驚き。
でもそれ以上に衝撃だったのは、こちらから話しかける前に僕を日本人だと見極めたことだ、、、、アジア人は顔の判断が難しいというのに、一発で国籍を当てるとは、やりおるぞこのサンタ。
「こんにちは」たった五文字から彼の力量がうかがえる。
サンタさんは驚いた僕を見て、してやったりの表情。
悔しい。なんだか、こう一方的にやられっぱなしでは面白くない。
こうなってくると意地悪したくなるのが人間というもの。
僕はどうにかして、サンタにボロを出させようと、質問を投げかけてみる。
「日本に来たことあるの?」
「毎年行っているよ、僕はサンタだからね」
ほうほう、まぁこの程度のジャブは軽くかわしてくるか。
じゃあ、この質問はどうだ?
「北海道に来たことある?」
「もちろん。成田から新千歳空港は1時間45分かかるよね〜ま、わしはトナカイ使うけどな笑」
はい、100点満点です、その回答。
思いがけないサンタの博識ぶりに、狼狽える僕。思わぬ、カウンターパンチを喰らってしまった。
ここで攻守交代。今度はサンタが切り込んでくる。
By the way,(ところでさ、君。)
do you have a girlfriend? (彼女いるの?)
by the wayがあまりにby the wayすぎた。
話はドリフトし無茶苦茶な方向転換を遂げる。
予想だにしていなかった質問にたじたじの僕。
自由に会話を展開するこのサンタさんはフリースタイルのチャンピオンに違いない。
僕がモジモジしているのを察してか、
サンタは空気を変えようと試みる。
「そんなの関係ねぇ、はいおっぱっぴー! こじまよしお〜♪」
「だめよだめだめー」
「ワイルドだろ〜♪」
怒涛の一発ギャグ披露タイムへ。
ネタが古いのはさておき、なんだかおかしい。どうにも雲行きが怪しくなってきた。
「、、、、サンタさん、、、、思っていたのと違う、、、、」
「なんか、もっとこう、寡黙でどっしりしているジェントルマンを想像していたのに、、、、」
目の前にいるのは、予想に反し、人間味が溢れすぎているサンタ。
僕の脳裏に浮かんだのは、酔っ払って一発芸を延々と披露し続ける友達のお父さん。
渾身の日本語ギャグをかまし、満面の笑みのサンタ。
困惑する僕。
「はい時間です」
ここで終了のゴング。
レフェリー(スタッフさん)が止めに入る。
流れるようにサンタと記念撮影をし、握手をし、退場を促される。
別れ際、サンタは茶目っ気たっぷりにとどめの「ゲッツ」
これが決定打となった。
一方的なサンタの猛攻に耐えられず、
開始3分、僕はサンタクロースにKO負けを喫したのであった。
サンタの部屋を後にしようとする僕に、先ほどのスタッフさん
「ねぇ、君!さっき撮った写真買っていかない?」
「いくらですか?」
「25€(約3500円)」
(!!!!!!!高い、、、)「結構です。」
サンタさんは生粋の「Giver」
先ほどの発言、全面撤回させていただきます。
初めてのサンタクロースは衝撃の連続だった。
サンタさんは人の恋愛事情に興味を持つ。
サンタさんは古めの一発ギャグを披露する。
サンタさんは写真も撮るし、お金も取る。
この日を境に、僕のサンタクロースに対するイメージは180度くるっと変わってしまった。架空の人物だと思っていたサンタは、実は近所のおじさんだった。
けれども、だけれども、
僕はやっぱりサンタが好きだ。
サンタの人間らしさを知れて、もっともっと彼のことを好きになってしまった。
2ヶ月後の聖なる夜、また彼に会えますように。
今年のクリスマスプレゼントはもう決めた。
高くて購入できなかった「サンタさんとの2ショット写真」これでお願いします。
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