日本→フィンランド〜飛行機で悶絶した話

エッセイ

フィンランド生活初日。
いよいよついた。

早速、フィンランドの印象について語りたいところだけれども、
まずは13時間かかったフライトについて語らせてほしい。

前提として、僕は今までロングフライトを経験したことがない。
最長でも日本ー中国間の4時間。13時間なんて見当もつかない。

漠然とした不安を抱える搭乗前の僕に、見送りに来た彼女は『エコノミー症候群』(長時間フライトによって身体に異常が生じること)について解説してくれた。
なんて、親切なんだろう。
おかげで、乗る前から、身がすくむ。
世の中、知らない方がいいことってあるよね。

何はともあれ、無事に搭乗手続きを済ませ、席に着いたわけだが、
機内に入って大きな問題に気づく。

「あれ、俺トイレ行けなくね?」

僕は何も考えず、景色の見える窓側席を取ったわけだが、これが失敗だった。
窓側席は、想像以上にトイレに行くのがためらわれるのだ。

僕のトイレへの道を阻むのは、通路席、かっぷくのいい親父さん。

いびきをかきながら、よだれなんか垂らしちゃってかわいい親父だ。
座席間隔が狭い以上、彼を超えずして、トイレには辿り着けない。

普通の人なら、「何をそんなことで悩む?親父起こして、はよトイレ行け!」
と思うかもしれない。
その通りだ。
ただ、僕は必要以上に他人を気にしすぎる性格のため、
一度親父の気持ちを想像したが最後、
起こすことに相当なためらいを覚えてしまったのだ。(この葛藤、伝われ。)

“ああ、トイレまでの道は険しい”

親父が起きることを祈って、
咳払いをしてみる。
意味もなく顔をじっと見つめてみる。
念力を送ってみる。

親父は、微動だにしない。
このゴールを目前にして立ち塞がる絶対的存在、「SASUKE1stステージ“そり立つ壁”」を彷彿させる。
彼を超えずして、完全制覇はあり得ない。

3時間経過、

5時間経過、、

8時間経過、、、

親父はずっと夢の中。

「相当疲れ溜まっているんだろうな」、徐々にそんなことを考える余裕もなくなる。

それから更に数時間、、、、ついに僕の膀胱が限界を迎える。
「う〜、う〜、う〜」
タイムリミットを知らせるブザーが脳内に響き渡る。
まさか、ここで無念の時間ぎれ(=お漏らし小僧)になるとでもいうのか

くそぅ、背に腹は変えられない、僕に尿意は抑えられない。
僕は勇気を振り絞って、親父に声をかける。

「あの、、、、トイレ、、、、トイレ行きたいんですけど、、、」

声が震える。親父は眠そうな目をこすりながら、僕を見つめる。
一度目を閉じ、また開ける。

再起動が完了して、とろんとした口調で親父は言う。

「あぁ、、、いいよ」

僕は、胸を撫で下ろす。
”親父、起こしてすまない、僕に残された時間はもう少ないんだ”

僕がシートベルトを外し、いそいそと親父の前を通り抜けようとしたとき、
ふと思いついたように彼はいう。

「そうだ、、、、俺も、、、行こうかな。」

親父はすっくと立ち上がり、
僕の進路を再び塞ぐ。

僕たちは、期せずして、連れションすることになった。

膀胱破裂寸前の僕を出し抜いて、親父がトイレに先着した時は、流石にキレそうになったが、
何はともあれ、一件落着。
尿意と共に、僕の怒りもおさまる。

“あぁ、マジで漏らすかと思った。”

席に着くと親父は僕をチラ見し、なぜか照れくさそうに言う。

「兄ちゃん、トイレまた行きたくなったら、いつでも遠慮せず起こしてな。」

柄にもなく、気遣いをしてくれる。
親父の優しさに触れた午前5時。

もう、到着の30分前だった。

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一難去ってまた一難。
(続編)フィンランド電車デビュー戦での奮闘はこちらから

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