燃えよ、イースター

エッセイ

ある日の職員室。
教員一同にミッションが課された。

「イースター当日、1980’sの仮装をしてくること」

1980’sって…
ボク、マダ、生まれてましぇん。
喉元まで出かかった弱音をグッと飲み込む。

80’sといえば、バブル全盛期。
…と言われても、僕には数年前に流行した「バブリーダンス」の印象しかない。

そういえば大学時代、余興であれを踊ったことがあったっけ。
グダリにグダリ、キレ0、“炭酸抜きビール”みたいなダンスを披露。
会場にスーパードライな空気が流れたことは記憶に新しい笑

まぁ、それはさておき、
ぼくはあまりに80’sに無知だった。

“これは困ったことになったぞ!”

帰宅し、ホストマザーに相談する。

事情を察したマザーは力のこもった声でいう。
「80’sファッションなら、私に任せなさい」

見ればわかる。
うちのホストマザー本気だ。

目には炎が灯っている。
こうなると、誰にも彼女を止められない。

マザーは、ボクを車へ押し込み、デパートへ。
あぁでもない、こうでもないと、
身包み剥がされ、服を着せられ、
気分はまるでリカちゃん人形

リカちゃんって本当にオシャレしたいのだろうか?
それって着せる側のエゴではないだろうか?
試着室の片隅で、そんなことを考えさせられた。

十数回の試着を経て、完成。

水色の爽やかアロハシャツ、
ショッキングすぎて目がチカチカするピンクパンツ、
サッカー選手のつけがちなヘッドバンド。

鏡を見て思う。

コレは、、、80’s………なのか?

何なら、『右ひじ左ひじ 交互に見て』のツネに見えるような…

いやいや、マザーを信じよう。
彼女渾身のチョイス。当時を生きていないものに、口出しする権利はない。


イースター当日。

髪をバシッと整えて、出勤。
片田舎にある学校ということもあり、通勤路は一本道。
生徒の登校と出勤が重なることもしばしば。

「好奇心」と「恐怖心」の入り混じった視線を360°から感じる

みんなジロジロ見つめては、「チョベリバ」「チョベリグ」「バッチグー」など思い思いの言葉をかけてくる。(どこの80’sチルドレンや)

正直、恥ずかしくなかったといったら嘘になる。

だが、僕はファッションショー経験者(詳しくは前作参照)
200人の視線を一身に浴びながらランウェイした昨年秋。
あの時の恥ずかしさに比べたら、こんなのなんのその。

オードリー春日ばりに胸を張って、通勤路を闊歩する。
知らない間に度胸がついていたようだ。

ロッキーのテーマ曲を流しながら、静かなる闘志を高める。

学校到着。

そういえば、自分のことに精一杯ですっかり忘れていたけれど、他の同僚はどのくらいの、本気度で仮装してくるのだろうか。
“調和”を大切にする「大和魂」がひょっこりと顔を見せる。

まだこの職場にきたばかり、しかもイースターデビュー戦とあっては、同僚の本気度を探るのも難しい。

まぁ、いいさ、他人なんて関係ない。
人事を尽くして、天命を待つ。
僕はやれることをやったんだ!!

職員室へ。

“あっれれぇ〜〜〜おかしいぞぉ。”

すでに3人出勤していたが、彼らの外見、いつもと何ら変わりない。ユニクロコーデを極めたような、ごくごく普通の私服である。

悲報:ショッキングピングパンツ、際立つ。

想像してほしい。
ユニクロ店内にショッキングピンクのズボン。
余裕で空中浮遊できそうなくらいには、浮いている。

“おいおい、君たち、仮装のこと忘れているんじゃなかろうな?”

目を凝らしてみると、全員お気持ち程度に、ピンク色のリストバンドをつけている。

“ちょ、ちょっと待って。まさかとは思うけど、そのリストバンドで、仮装したつもりになっているんじゃないよね?ちゃんと、着替えれるようにコスチューム持ってきているんだよね?”

それとなく聞いてみると
「僕たちは、今日リストバンドだけだよ」の返答。

「温度感測り間違えた〜〜〜〜〜」

ダダダダーン。ズズズズーン。
ベートヴェンの運命が鳴り響く。

こうなっては胸中穏やかでない。
僕の心が震度6強で揺れている。
自尊心が音を立てて瓦解し始める。

先生方は僕を見て「本気だね〜」と声をかけてくれるが、もはやそれが、「褒め」なのか、「からかい」なのか判断する能力すらない。

「今日一日この格好で仕事か…」
僕の中で、バブルが弾け飛んだ。


授業後、教員一同で、体育館に集まり、パーティーをすることになっていた。今日はこのために、学校に来たと言っても過言ではない。

これがなかったら、今日着てきた服は狂気的・・・である。
体育館はdiscoモード全開の特別仕様。中は、すでに人で賑わっている。

先生方のファッション戦闘力を確認せんと、スカウターで周囲を見渡す。

リストバンドトリオ。
「戦闘力たったの5か」

黄緑のネオンカラーパーカー
「戦闘力14」

僕の戦闘力は少なく見積もっても1300
控えめにいって、頭一つ抜けているね。

対抗馬は隣のクラスのおてんばおばさん。
通称「オバタリアン」

服はスパンコールドレス。
首にはクリスマスツリーに巻く、金色のやつ。

まぶい、まぶいよ、あなた。
自分のまぶしさに目を潰されないように、サングラスまでしてやがる。

ワンポイントの「よくわからない小鬼のイヤリング」もいい味を出しており、ギンギラギンにさりげない。

「う〜む、80’s」
嘆息の声が漏れる。

これはどこからどう見ても80’s(知らんけど)
正統派80’s。当時を生きていたものとしての風格が漂う。

僕か彼女、どちらかが、80’s、初代王者だろう。
結論がほぼ出かけた時だった。

「せ、戦闘力…53万だと……!?」
僕のスカウターが爆発する。

乱入者登場。
顔は白塗り、毛は逆立ち。
その姿は、もはやキッスご本家である。

「だ、だれだ!!」

この圧倒的存在感、只者じゃない。

正体を探ろうと、凝視する、
君の名は?

「…………………..」

「……………………」

「あれ、まさか」

「…Kalle?」

白塗りの下には、普段おとなしいことで定評のあるKalleカッレが潜んでいた。

メガネに金髪、寡黙なKalle
職員室で話しているのを見たことがないKalle
「彼」なのか「Kalle」なのか日本語だとややこしいKalle。

どうやらこの日に勝負をかけてきたみたいだ。
正直「おったまげ〜」である。

おとこの面構え。漂う風格。
彼には、覚悟がある。
全てを捨て去る覚悟が….

「もしかして、今日限りで退職するのではないか」一抹の不安がよぎる。

その変身ぶりや、「ギャップ萌え」を通り越してもはや「ギャップ燃え」

普段のイメージが灰になりそうなくらいの轟々ごうごうたる燃えぶりである。

大火事も大火事、懸命の消火活動虚しく、体育館中を炎が覆う。僕たちは彼から発せられる火炎にことごとく焼き尽くされてしまうのだった。

イースター仮装大会結果発表

優勝者:Kalle👑

次点:該当者なし。

なぜかって?

「仮装」「火葬」になったからさ。

お後がよろしいようで

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