ハロウィン天国、ハロウィン地獄

エッセイ

日本では毎年10月末になると、日頃の鬱憤を晴らさんと、渋谷に成人お化けたちがはびこる。

言い方に棘があるって?それでは、かっこよく言い直そう。

渋谷に成人お化けが跳梁跋扈ちょうりょうばっこする。(訳:好ましくないものが、好き勝手に振る舞い、はびこること)

「おどろおどろしいこと、この上なし」である。

僕は、毎年その様子を家族とニュースで見ていた。
母は「あんぐり」、祖母は「アングリー」である。
「何やってんのよ、いい歳して!!」テレビに怒鳴る嫗、御年86歳でございます。

そのような背景もあり、
日本で開催されるハロウィンに対して大変懐疑的な自分がいる。

ところが、今年はそんな僕がハロウィンに全身全霊で臨んでいる。

「何があった」って?

よくぞ聞いてくれました。
何せ、ここはハロウィン発祥の地ヨーロッパ ( ̄∇ ̄)v ドヤ
本場のハロウィンなら参加しないなんてあり得ないでしょ?

ヨーロッパのハロウィンの何がいいかって
「成人お化け」が少ないところ。
彼らはわかっている。メインは子どもだって。

(僕はフィンランドの公立学校で働いているから、)小学生たちは目が合うなり叫んでくる

「Trick or Treat!!」(お菓子くれなきゃいたずらしちゃうぞ♪)

ま、ま、眩しい!!!!
なんだこのエンジェルスマイルは!

キッズたちはお化けの仮装をしているはずなのに、天使に見えて仕方がない。

よしよし、そんな可愛い君たちに、キャンディをしこたまあげるとしよう。

彼らの浄化作用もあり、僕のハロウィンに対する見方が180°変わる。
「やっぱ、ハロウィン最高だわ」よし、僕も唱えちゃおう、
「トリックオアトリート、トリックオアトリート♪」
フィンランドで浮かれたハロウィンおじさんを目撃した方、きっとそれ僕です。

ハロウィンの魔法にかかり、ニタニタににやけている僕の顔を見て生徒は言う。
「先生、お化けみたいな顔してどうしたの?」

「誰がお化けじゃい!」「人のにやけ顔を馬鹿にするんじゃないよ」
激しめのツッコミに生徒はキャッキャと騒ぎ立つ。

ちょこちょことよってくる男子生徒。

「ねぇ、先生もっと飴ちょうだいよ」

なんて図々しい小僧なんだい。
でも可愛いからあげちゃうもんね。

何でもかんでもあげたくなっちゃうこの感覚。まるで気分は親戚のおじさんだ。

こんなゆるゆるテンションで働くこと半日。
僕は人生初のハロウィンを大いに堪能したのだった。

で、散々楽しんで15:00ホストファミリー宅帰宅。

ホストマザーにハロウィンの魔法について語り出そうとすると、
マザーが衝撃のカミングアウト。

「わたし、ハロウィン嫌いなんだよね」

「??????????」

理由を聞いて納得。そういえばそうだった、うちのホストマザー世界1の変わり者なのだ。
彼女は「クリスマス」以外の祝日を祝日とは認めない。

年を重ねる絶望を味わう「誕生日」、甘すぎるチョコに吐き気を覚える「バレンタイン」、飴なんか用意すらしない「ハロウィン」

マザーの辞書に祝日という文字はない。

というわけで、帰宅後、マザーによって僕のハロウィン熱は急速に鎮火される。

幸いなことにホストファミリーの家は人里離れた田舎に建っている。
ここなら、子どもも訪ねてこないだろう。

そう思った矢先、

「ドンドンっ」
ドアをノックする音が聞こえる。

ホストマザーは僕に「確認してこい」と目配せ。
僕はおそるおそる覗き穴から外の様子を伺う。

「誰もいない、、、、?」

、、、、と思ったら、下にいました女の子。
背が小さくて、見えていないだけだった。

僕はマザーにジェスチャーで伝える。
「いる!!小さな、女の子!!扉の向こうに」

マザーは絶望の表情。
「近所の子だわ。いないふりして」筆談で僕に伝える。

僕らはひと気を察知されないよう、息を潜める。

ドンドンっ!!ドンドンドンっ!!!!
女の子もなかなか粘り強い。

せっかくのハロウィンだというのに、
まるで借金取りに追われているかのような錯覚に陥る。

「飴はないんです!お願いですから帰ってください」
そう言えたらどんなに楽だろう。
さっきまであんなに楽しかったハロウィンが、たった数時間で地獄のイベントへと豹変するとは。

女の子は2分ほどして、ようやくいなくなったようだった。

再びおとずれる平穏。
「あの子、とんでもないわね」マザーはいう。
「そうだね、あの子はとんでもない」うんうんと激しく同意した後に、ふと冷静になる。そして気づく。

あの子に罪はない!だって今日はハロウィンなのだから。お菓子を回収しにきただけなのだから。勢いで少女を罪人にしてしまった。申し訳ない。

「わたし疲れたからリビング行くわ」
マザーは少女の取り立てに相当神経をすり減らしたらしい。
スタスタとリビングへ行ってしまった。

「ぎゃあっ!!」
マザーの甲高い悲鳴が聞こえたのはそれから数秒後だった。

慌ててリビングへ向かうと、窓ガラス越しに部屋の中を見つめる女の子。
女の子はまだ諦めていなかったのだ!

マザーと女の子はガッツリ目があってしまっていた。

「なんだいるじゃありませんか」不敵な笑みを浮かべる少女。
「もらうもん貰って帰りますからね」彼女は両手を差し出す。

不意打ちの少女に素っ頓狂な声をあげたマザーだったが、
しばらくして、覚悟が決まったのだろう。
女の子をじっと見つめて言う。

「わたしは家にいません。」

女の子「???」
僕「???」(何を言っているんだ?)

女の子「え、いるじゃん。見えるけど」
マザー「いません。」

女の子「いるよ、私ね、視力いいから」
マザー「いません。」

しばらくこの問答が続く。
女の子はマザーは打ち崩せないと見るや、
ターゲットを変えてきた。

女の子「そこにお兄さんがいる」
僕「、、、、、、」

女の子「お兄さんTrick or Treat!」
「いません、お兄さんはいません」

僕は仕方なく、マザーの三文芝居に付き合うことにした。
女の子に飴をあげたい気持ちは山々だけど、僕に飴はもうない。
無論、マザーは飴を一粒たりとも用意していない。

この子を傷つけないためにはどうすればいいのか、
僕の頭脳が導き出した最適解は「いないふりをすること」

女の子「お兄さん!!」
「いません」

女の子「ねぇ、冗談やめてよ!」
「いません」

いつまでやるんだろう、この下り。
執拗なまでに粘り強い女の子から、飴に対する執念がうかがえる。

間違いない、この子、砂糖に飢えている!

しばらく「いるいない」の押し問答を繰り返した後、
女の子は不可能だと悟ったのだろう。
プンスカしながら捨て台詞をはいて去っていった。

「明日、また来るからね!」

みなさん教えてください。
ハロウィンって、なんですか?

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