「髪型どうします?」〜海外散髪デビュー

エッセイ

僕は床屋が嫌いだ。

小学生の頃、当時片思いをしていた女の子がいた。
髪を短髪にした翌日、ドキドキしながら登校。

胸をときめかせながら思い人に問う

「新しい髪型、、、ど、どうかな?」

「髪、長いときのほうが良かった〜」

彼女の口から発せられたのは、なんとも無慈悲な一言。
淡い恋心がズタボロにされたのは想像に難くない。

それから、自分の中で「髪は長いほうがいい→床屋は悪」という方程式が完成してしまった。だから髪が伸びても極力耐えて、見苦しくなったときにようやく重い腰を上げるのがお決まりだった。

私の髪は父からの遺伝でもみあげが長く、極限を迎えるとカールしてくる。つまり、「もみあげのカール」がヘアカットのタイミングである。(誰得情報)

そして、ついにこの日がやって来てしまった。
海外に来て2ヶ月半、僕のもみあげがくるりとカールしはじめている。

「仕方ない、、、、髪切ろう。」

今回の散髪、「異国の地」で髪を切るプレッシャーも相まって、過去に例を見ないくらい憂鬱だ。

日本でさえ散髪が嫌いなのに、どうして海外で髪を切ることができようか、いや、できない(反語)

しばらく駄々をこね、粘ったものの、立派に育ったもみあげは、ルパン三世も顔負けの超一級品へと化しつつある。

「やばい、このままではもみあげに身体を乗っ取られる」

危機感から僕はようやく重い腰を上げるのだった。

幸いなことに、髪を切ってもらうあてはあった。
先日ファッションショーでヘアセットを担当してくれたスタイリスト(*注 MIWAさんではない)が無償でのヘアーカットを申し出てくれたのだ。

彼らにとってアジア人の髪をカットする機会は貴重で、経験のため切らせてほしいとのこと。

「まぁ、そこまでいうなら、切らせてあげてもいいけど」(何様?)

こっちも無償でやってもらえるというし、win-winだ。

お店に到着。
上着を脱いで、席に座って、「髪型どうする?」と問われたとき、初めて気づいた。

あれ、自分、散髪用語」何も知らないわ。

盲点だった。
「つむじ、もみあげ、えりあし、刈り上げ」
そういえば、どの英単語も知らない、、、

だって高校の英語の先生教えてくれなかったもん。

先生だけじゃなく、英単語帳も悪い。
一生使わないような難単語は載せるくせに、「もみあげ」は載せない。
これほど日常に根ざした言葉は他にないというのに。

出版会社さん、これからは英単語帳1ページ目に「もみあげ」を加えてください。

*ちなみにもみあげは英語でsideburns。両サイドが「バーン」ってなるからサイドバーンズ。シンプルで日本語より覚えやすい!改めて思ったけど、日本語の「もみあげ」ってなんやねん。わかりづらいわ。
皆さん覚えましたね?これで海外の散髪も安心です(ゴミ情報)

話を戻そう。
散髪用語を何も知らない僕に残された道は、恥を捨て「出川English」(日本語と英語を織り交ぜたカタコト英語)で要望を伝えること。

「もみあげhere, very long」
「I don’t like long もみあげ」
「Cut here, short, short」
「No バリカン, No バリカンダメ、絶対」

身振り手振りも駆使して説明。

・・・・・・通じず。

出川、今まで馬鹿にしてごめん。
通じるあんたはすごいよ。

こうなったら仕方がない。
僕はとっておきの最終呪文を唱えることにした。

「I’ll leave it up to you!」(おまかせで!)

これぞ最強の丸投げ魔法である。
海外で選択を迫られたとき、考えるのが面倒くさい時、これを唱えれば万事解決。僕は思考を停止し、命運をスタイリストに託すのだった。

戸惑いながらも、「任せなさい」とスタイリスト。

彼女のカットは慎重この上なかった。
まるで爆弾処理班がコードを切るかの如く、丁寧に一本ずつ、ちょこん、ちょこんとカットしていく。まつ毛程度の長さの髪が、パラパラと落ちる。(どんだけ慎重やねん)

こうしてみると、迷いなくばっさばっさカットしていく日本の美容師さんってすごいなぁと改めて感心。慣れない髪を切るのって大変だね。ま、知らんけど。

ある程度までカットが進んだとき、担当さんが唐突に文句を言い始める。

アジア人の髪は硬すぎる!!
「短くするとはねちゃうんだよね。この横部分が難しすぎるわ」

「なんか、ごめんなさい」

髪質を恨むなら、先祖の縄文人と渡来系弥生人にでも言ってくれ、、、、なんて、言えるわけない。

カットをはじめて1時間30分。
ようやく切り終わる。

どうやら、爆弾解除は成功したらしい。
自分で言うのも恐縮だが、韓流イケメン風のいい感じに決まっていた。(髪型だけ)

僕は今にもDynamite(BTS)を踊り出しそうな勢いで店を後にしたのだった。

今、世界には国際化の波が押し寄せている。
言語は「英語一強」の時代へ。
いつか、日本に“日本語禁止美容室”ができてもおかしくない。

将来のあなたのために、以下「最重要ヘア単語」を授けます。

もみあげ:「sideburns」
〜アメリカ軍人の「バーンサイド少将」の特徴的なヒゲが由来。え、人名だったんかい!!!自分の名前が顔の一部になるなんて何たる栄誉。みんなで目指そうバーンサイド。

バリカン:「clippers」
〜いや「バリカン」英語じゃないんかい!どうやら「バリカン・エ・マール」という会社の製品だからバリカンと呼ばれ始めたそう。ちなみにフランス語だと「tondeuse(トンズーズ)」かわいい響き。

つむじ:「hair whorl」
〜検索したら例文出てきました。「He has three hair whorls on the back of his head.」(訳:彼は後頭部につむじが3つあります。)例文の癖がすごい笑

ちなみにこの記事全体で「もみあげ」と連呼した回数12回。1年分のもみあげ使い果たした気分です。

にほんブログ村 海外生活ブログへ
にほんブログ村

コメント

タイトルとURLをコピーしました