米の禁断症状と忘れられたHAYASHI

エッセイ

フィンランドに来てまだ三週間しか経っていないのに、僕は早くも日本食が恋しい。
寿司にカツ丼、親子丼、天丼、うな丼、鉄火丼、、、、考えただけで腹が鳴る。

決してこちらの料理がまずいわけではない。
ただ、ライ麦パンとじゃがいもがメインの食事は、口内の水分を大量に奪っていくし、どうにも腹持ちが悪い。
昼ごはんを食べた2時間後には、もう腹ペコになっている。

パサパサのライ麦パンを食べるたび、僕は日本に置いてきた“元カノ”の存在を思い出す。
日本では毎日一緒にいた、いつも近くにいた、近すぎて当たり前になっていた、、、

そう、僕は“米”に恋焦がれていた。

日本人のソウルフード“米”
全国民の恋人。

僕は知らないうちに米に生かされ、米に依存し、米なしでは生きられない体になってしまったようだ。

それなのにあろうことか、出国の際、これっぽっちも米のことなんか気にかけなかった。

フィンランドに来てから“サトウのご飯”を持ってこなかったことを何度悔いたことか、、、

だからフィンランドの先輩が、「ハヤシライスを振るまってあげる」と言った時、胃袋が歓喜の悲鳴をあげた。

「米が食える!」

さらに嬉しいサプライズ。
先輩宅について真っ先に目に飛び込んできたのは『炊飯器』
先輩は『炊飯器』を持っている!
フィンランドでは保有率3%*を切るであろう希少品だ。 *この数値に信憑性はありません

炊飯器は偉大だ。米自体のスペックが大したことなくても、彼らの手にかかれば一級品へと昇華する。
日本にいた頃はぞんざいに扱っていたが、そのこと心から謝罪したい。

久々にする『米研ぎ』
いつもの2倍増しで丁寧に混ぜる、愛でる。
ただの米研ぎなのに、何だか嬉しい。
米をジャラジャラ混ぜていると、テンションも上がり楽しくなってくる。

たっぷりの水と愛情を浴びたお米を
機械にセット。

「ピロリン〜♪」
あとは待つこと1時間。

ー50分経過ー

次第に炊飯器から湯気がたち、
部屋中幸せの匂いで満たされる。

残り10分のカウントが表示される。
僕は数字から目が離せなくなる。

「10、9、8、、、」
カウントダウンをこれほど心待ちにしたのは、大晦日のジャニーズ以来だ。

そして、、、ついに時はきた。

「ピピ〜ピピ〜ピピ〜♪」

ふっくらほかほかに炊かれた米を前にした時、思わず満面の笑みがうかぶ。

さっさと米を混ぜ、山のように米を盛る、
はやる気持ちをおさえて、いただきますの合掌。

食べ始めて気づく。
スプーンが止まらない。

米がうまい。
もちもち甘くて、粘り気がある。

「やっぱ、お前だよな。お前しかいないわ。」
僕は2度と浮気しないことを誓う。

この幸せな時間を忘れないよう、
少しでも長く共にいられるよう、
腹に大量の米を流し込む。

3度目のおかわりライスを平らげたときようやく、
皿の端っこで縮こまった“ハヤシ”の存在に気づく。
ハヤシは僕に食べられるのをずっと待っていた。

本来ハヤシがセンターのハヤシライス。
しかし今回は、米というスーパースターの登場により、
ハヤシライスの序列が崩れてしまった。

「ハヤシにかまっている場合ではない」
心の中でそう呟き、意中のお米へ一直線。

無意識のうちにハヤシは隅に追いやられ、黒子としての役割に徹していた。
彼のことなんか完全に忘れていた。

心もお腹も満たされた僕は、
冷ややかな目で、冷え切ったハヤシを見つめる。

「食べるべきか、残すべきか、、、」

数秒考えこんで、ハッと気づく。

「これはハヤシに対する悪質なイジメではないか?」

米ばかりひいきして、ハヤシはガン無視、まるで無いもののように扱う。
これこそイジメの構造ではないか。

「こんなひどい仕打ちはないよな、ごめんハヤシ」

僕は、深く反省した。

それから、ソロハヤシを楽しんだ。
お腹はいっぱいだったが、それでも美味しいと思えるあたり、ハヤシの潜在能力の高さが伺える。
胃袋の中でハヤシと米が仲良くやっていることを願っている。

何はともあれ、

「感謝、感激、米ハヤシ」
ごちそうさまでした。

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