ファッションショー前日〜拷問ヘアセット

エッセイ

今日はファッションショー前日、リハーサルの日だ。
(ファッションショー参加の経緯を語った前作はこちらから)

今回のファッションショー何がすごいって、
「ヘアスタイリスト、メイクアップアーティスト、ファッションコーディネーター」
プロの手厚いサポートが受けられること。

長いカタカナの字面からは、隠しきれないお洒落な匂いが漏れ出している。

小1まで丸坊主。高3までスポーツ刈り。
ファッション偏差値30の僕にとって、美の世界に身を置く彼らとのコラボはまさに「未知との遭遇」であった。

まずはヘアセットをしてもらおうと、ヘアスタジオに向かう。
何だヘアスタジオって、どうせ床屋をお洒落に言い替えただけだろ。
心のどこかでそんな思いがあったかもしれない。

しかし、僕の舐めてかかった態度は、店内に足を踏み入れた瞬間消え去る。湧き上がるのは畏怖の念。

スタジオは20人のヴァルキリー(戦う乙女)
若手からベテランまで様々な年齢層で構成されている。
連携しながら、テキパキと奇抜な髪型を創り上げていく。

待っている最中、彼女たちを観察していた。
言うまでもなくお洒落だ。髪型、服装、化粧、素人目に見ても美しい。
とんでもなく美しい。(大事なので2回いう)

外見だけでない。ファッション業界に身を置くものたちは一つ一つの所作までも洗練されているのだ。

僕は唐突に、UNIQLOでかためてきた自分のコーディネートをゴミ箱へ捨て去りたい衝動に駆られる。

10分ほど待つと出番に。
今日はリハーサルということで、ファッション学校の生徒:ミリアが担当してくれるそうだ。

今回僕が参加するファッションショーのテーマは「北極」
この世界観をもとに、ヘアセットを施してもらう。

彼女曰く、髪はつららをイメージしてセットするらしい。

「つらら」って何するんだ?
期待に胸が膨らむ。

すると、彼女はワックスをゴッソリ手に取り、髪にべたり。。
どうやら髪を全て上げて僕を「スーパーサイヤ人」にしようとしているらしい。

なるほどつららってこういうことか。

しかしどうにもうまくいかない。

欧米人と比べ、アジア人の髪は一本一本が太くこしがあるという。
そりゃそうさ、僕はスパゲッティよりうどん派だからね(意味不明)
ヘアセットも一筋縄ではいかない。

それに加えて、この道23年間、ストレートヘアを貫いてきた僕の髪(坊主時代を除く)重力に逆らい無理やり髪を上げようとする彼女に、髪も負けじと対抗する。

ミリア必死の努力も虚しく開始15分、髪はしなびたほうれん草のごとく、ヘタレたままだった。

この勝負、僕の勝ちだ。

「ふぅ」と一息。
安堵しかけたとき、、、

ここで登場、大御所感あふれるおばさまスタッフ。
黄色い髪、ジャラジャラの装飾品、厚化粧。美輪明宏に負けない存在感。

ここでは便宜上「MIWAさん」と呼ばせていただこう。

ひと目見てわかった。彼女が、この店のボスだ。
ミリアがものすごい低姿勢になっている。

MIWAさんは言う。
「ちょっと私にお変わりなさい。」
唐突な担当変更。

MIWAさんは僕の後ろに立つや否や、髪を鷲掴みにし、引っ張る。

「うんとこしょ、どっこいしょ」
彼女、僕の頭を大きな株か何かと勘違いしているのではなかろうか。

あまりの剛力ぶりに、毛根ごと引っこ抜かれるのではないかという恐怖に襲われる。事実、時々プツリと音を立て、僕の髪が抜けていた。

そうか、羽をむしり取られるニワトリはこんな気持ちだったのか。

それから、時折使うドライヤー。
彼女が手にするドライヤーはさながら火炎放射器
「わざとやっている?」と疑うレベルで特定部位に集中攻撃してくるため、熱くて熱くて仕方がない。

なんだかMIWAさんの底知れない悪意を感じる。

髪の毛からしたらとんだ大災害である。
今まで自由に伸び伸び生きてきたというのに、
「地震」「噴火」が突然同時に襲ってきたも同然

避難しようにも頭皮に縛られている以上、どこにも逃げ場はない。

その日、毛髪は思い出した。
巨人に支配される恐怖を。
鳥籠の中に囚われていた屈辱を。

それにしてもMIWAさん、遠慮がない。
どうやら歳をとると「情け」という概念が吹き飛ぶらしい。

あまりの激痛に、拷問を受けているような錯覚に陥る。
痛過ぎて終始涙目の僕と、真顔のMIWAさん。

「あ〜〜〜ちょっと痛いかもしれないです、、、、」

「大丈夫! すぐ終わるから!」

「、、、、、」

彼女の耳に僕の悲鳴は届かない。

担当変更5分後、
なんということでしょう。

あれほど頑なに上を向くことに抵抗していた毛髪たちも、
(MIWA様)の手にかかればお手のもの。
元気に一同起立し始めました。

ヘアスプレー丸々1缶使って固めた頭髪
もう2度とヘタレ落ちる心配はありません、、、

こうして毛髪の魔術師MIWAの手によって
僕は一瞬にしてスーパーサイヤ人にされてしまった。

床には凄惨な戦いの証「抜けた毛」がちらほら。

むしり取られた、毛髪たちよ。
どうか安らかに眠ってくれ。

今日がリハーサル。土日が本番。
ヘアセットはあと2回、、、

僕、禿げるんじゃなかろうか。

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